「仮面の男」詳細レポート

カナダ在住のEtsukoさんから、「仮面の男」についての詳細レポートが届きましたので、全文を紹介させていただきます。なお、読みやすさを考慮し、編集者の方で、文字色および段落の変更をさせていただきました。


初めてお便りさせていただきます。インターネットで映画のコーナーを探していて三銃士のクラブを見つけました。

私のいるカナダ、ケベック州は北米で唯一のフランス語人口がマジョリティーを占めるところです。ですから、ディカプリオ主演の映画もフランス語吹き替え版です。日本のように字幕スーパーではありません。もともと、時代劇が好きなだけで、何も知らずにこの映画を観に入ったのです。三銃士にD'Artagnanとは思いもよりませんでした。 デュマの作品は三銃士と王妃マルゴを文庫本で読んで、たいへん好きで、試験前にもかかわらず、一気に徹夜で読んだ記憶があります。アニメーションや他の映画で三銃士を観たことがなかったので、人物像については、これといったイメージがなく、少々髪が薄くても気になりませんでした。ただそれぞれの性格についてはわたしのイメージを壊すことなく、いまはうれしくて今日で9回目の映画館通いです。(ここは、昼間は3ドルで映画が観れるのです。)

 三銃士とD'Artagnanについては俳優さんがそれぞれ50歳前後のベテランさんばかりで、円熟した演技は何回みても飽きません。 主演ディカプリオについては、これだけベテランに囲まれれば演技の若さが目立ってもしょうがないと思います。30歳近い年令差を考えれば、当然です。私の友人達も、女の子のような顔とか、ベビーフェイスだと言ってます。顔の可愛さで売れるのは今のうちだけ。これからが彼の俳優としての正念場だと思います。それでも、ルイ14世の双児の弟、フィリップを演じる時は彼らしい顔をしていました。ルイ14世については、フィリップとの対比をはっきりだすためか、かなり脚本も意地悪になっていて、優しい顔のヂィカプリオには気の毒です。 わたしは映画については詳しくなく、外国の俳優さんも名前を覚えるのがまずダメ。映画の好きな友人達と、インターネットでみた情報で、三銃士を演じた俳優さんはみなベテランであることがわかりました。デュパルデュについてはシラノでもはまり役でしたが、今回も彼以外ポルトス役はいないように思います。女装とヌードの後ろ姿は観客の笑いを誘います。アラミス役、ジェレミー・アイロンはイギリスの俳優さんで、いい役も悪役もこなし、観る度に印象がかなり変わるということです。インターネットでは口ひげなしと、ありの両方の写真がみれますが、口ひげがないとかなり印象がちがいます。役によってイメージをかえられる数少ない俳優さんのようです。また、シェークスピアなど、時代物の経験も豊富で今回の映画でも安心して観ていられます。アトス役ジョン・マルクビッチはふだん悪役の多い俳優さんだそうです。今回はむすこ想いのやさしい父親、そのうえ冷静沈着なアトスの役を好演しています。インターネット上では、髪の短い時と、この映画のイギリスでのプレミアム上映の時のスキンヘッドの写真がみれます。どちらもイメージがかわりません。D'Artagnan役のガブリエル・バーンはアイルランドの出身で、いまは合衆国に住んでいます。アイルランドでデビュー、地理的に近いせいもあってイギリスでも知られているようですが、10年程前からアメリカ、ロス在住です。映画をみたあとで、このバーンとディカプリオだけが青い目なのに気がつき、ちょっとハハーンと思いました。汚れのない清潔な青年から、そのまま大人になったD'Artagnanを無理なく演じています。でも口ひげなく、髪も短い現代の写真をみると、印象がかなりちがいます。王母役、アンはたしかニキータという映画にでていたと思います。随分若いころですが。 クリスティーン役ジュヂィトはここ数年フランス映画のスクリーンで良く見かけます。ボーマルシェ(Beaumarchais)とリディキュル(Ridicule)はたしか日本でも公開されたと思います。

戦士としての使命もなく、老いとの戦いにやるせない想いのポトス。息子ラウルの死によって王ルイに対する怒りをあらわにするアトス。ルイ14世の圧政に反抗するイエズス会の指揮者暗殺の使命を王自身から受けたアラミスですが、その彼自身がイエズス会の総指揮者であるので、王のすり替えを計画し、昔の銃士仲間に助けを求めます。 ポルトスとアトスは2つ返事で引き受けますが、ダルタニアンだけは、拒否。王宮の近衛兵隊長の任にあれば、あたりまえかとも思います。ふつうならば、秘密を知られたわけですから、ここでアラミスがダルタニアンと決闘でもしておかしくないのですが、ダルタニアンはアラミスの影の姿を黙認、アラミスも彼を信頼します。ルイ14世の気侭な政治をみせられている観客は三銃士の王への離反には首を縦にふりながら、ダルタニアンの強い反発に首をかしげます。三銃士は知りませんが、ダルタニアンは王に近い側近達のなかで、ルイに直接厳しい言葉をかけています。でもいくら年が上とはいえ身分が違うのですから、諫言にも限度があります。

 最後の最後まで王の警備に献身するダルタニアンですが、アトスの息子ラウルとクリスチーヌのことに始まり、市民に対する悪政等に重ねて、突然彼の前に現れたフィリップ(王の双児の弟)に対するルイの態度に失望を覚えます。そして、密かに愛する人のため、ダルタニアンは旧友三銃士のもとへと馳せ参じます。最後の30分、クライマックスは感動的だったと書いている方がいらっしゃいました。まさにそのとおりで、このシーンをみなから、日本人はチャンパラが好きだと思っていましたが、こちらのひとも西洋版チャンバラは好きだと改めて認識しました。わたしもこのところ日本のチャンバラを見れずに飢えているのかもしれません。それと、4人の友情で結ばれた堅い結束、義理人情の世界は日本人でなくても涙を誘います。主演はディカプリオとはいえ、4人の銃士も重要な役を占めるのでこの4人が主役と言ってもいいと思います。とくにアトスの父親としての気持ちが大きな軸のように見えます。ラウルに接する姿、その死、フィリップとの出会いから、まるで親子のようになるまで。映画のはじめのシーンで、アトスがダルタニアンに言うセリフで、「おまえは、子供を得るということを知らない。寝息を聞き、すこやかに育つのをみる喜びを知らない。」と、いうのがあります。それにたいするダルタニアンの答えが、「そうだ、父親の感情はイメージすることしかできない。」です。映画のクライマックスを観たときに、このダルタニアンの台詞を思い出しました。親だと名乗れる親もいれば、名乗れない親の違い。どちらが、幸せでしょうか。

 ディカプリオ演じるフィリップのダルタニアンにいう最後のせりふが映画の題名を思い起こさせます。そして、最後の最後に王はアトスに本当の息子のように愛してくれと命令を出します。現代社会の中で親子の愛情とはないか。と考えることがあります。とくに、ここケベックは離婚率も非常に高いですし、片親で育った人、1人で子供を育てている人が多いです。子供が小さい場合、母親に引取られることが多いですし、どうも父親の愛情を忘れがちですが、(日本のお父さんは働きすぎで家にいないし)、その辺を思い起こさせるのも製作者の意図かも知れません。一方、母親の愛情もわすれられていません。王母アンが控えめながら母の愛情を体現しています。

先週末、オタワに旅行したとき、英語版のオリジナルをみる機会に恵まれました。わたしは、英語はからっきしなのですが、ネイティブの友人に、仏語ふき替え版との違いをすこし、解説してもらいました。俳優さんの出身地によって英語のアクセントに違いがあるそうです。ディカプリオは西海岸の、デュパルデューは仏語の、マルコビッチはスタンダード、アイロンはイングランドの、そしてバーンはアイルランドの発音です。英語自体も古い言い回しが使われているそうです。とくに北米大陸には王制がないので身分による言い回しの違いはないそうですが(イギリスにはまだあるかもしれません)、王家に対する言葉遣いはold Englishだと言っていました。 たとえば、ダルタニアンがアン王母に「My lady」と呼び掛けるシーンがあります。これは住民が女領主に向かっていう言葉だそうで、ふつうは言わないそうです。フランス語では「ma reine」(私の女王=直訳)でした。ビデオがでたらカナダで仏語版を日本で日本語字幕スーパーのものを買ってみようかと思っています。

ごちゃごちゃかきましたが、衣装もきれいです。女性のドレスもですが、ダルタニアンの制服も王宮内にいるときと、外にいる時(馬に乗っているとき)は違いますし、最後の戦闘シーンは4人の銃士がルイ13世当時のユニフォームを着ます。わたしはこの最後の衣装が好きです。現実的には、あんなにきれいな衣装で、おまけに動きにくそうなナガーいコートを着て、チャンパラできるかなとも思いますけど。羽根つきの帽子をかぶって馬を疾走させるシーンもきれいです。ディカプリオの王の服はいまいちですが、クリスチーヌと食事するときの赤い衣装と、最後の黒い喪服は似合ってたと思います。

 三銃士ファンクラブのインターネットページでダルタニアンシリーズの邦訳版が廃盤になっていると知って残念に思っています。ここでは仏語版は手に入りやすいのですが、何ぶんにも原語でこれだけ長い小説を読むだけの能力があるかなと心配です。日本語版を隣に置いて原文に挑戦したかったです。長くなりました。映画をみた喜びと、インターネットでファンクラブの存在をみつけた喜びのあらわれです。お許しください。

1998.5.15 / Etsuko(カナダ、ケベック在住)Merci!


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