「エキシビション」のダルタニャン


「エキシビション」もリンクはダルタニャン一色でした

2月21日午後3時から、フィギュアスケート上位入賞者によるエキシビションが長野ホワイトリングで行われた。

我々の期待通り、この夜もダルタニャンのコスチュームで登場したキャンデロロ選手。しかし、ヨーロッパ選手権と同様に「サタデー・ナイト・フィーバー」の曲が始まり、ダルタニャンの扮装のままで音楽に乗ろうとするキャンデロロ選手。「ああ、やっぱりあの感動をエキシビションで再現するのは無理か。せめてあのコスチュームを身に付けてくれただけで、満足しよう。」キャンデロロ選手のダルタニャンを期待して待つ誰もがそう思いかけたとき、彼の突然の中止の合図。身振りで曲が違うと訴えかける。きっとこれも彼一流の演出の一部だったのだろう。

このアクシデントで観客の心をすっかり掴んでしまったキャンデロロの「ダルタニャン」が始まる。あの一週間前の感動が蘇る。だが天性のエンターティナーである彼は、あの時と全く同じ演技をするはずがなかったのだ。あの、颯爽と氷を蹴った感動の三回転のコンビーネーションジャンプは、今度はコミカルに転倒して見せる。それも完全な演出効果として見せるための転倒だ。中盤の貴婦人に愛を寄せる演技ではリンクの壁を飛び越えて観客席の婦人を抱きしめるサービスぶり。そして、あの見えない剣を振り回しながら直進するステップを踏んで会場は大いに沸き立っている。彼がエキシビションで得意とする後ろ宙返りやうさぎ跳びジャンプも披露して、陽気なダルタニャンを演じて見せる。

演技が終わっても、観客の拍手は留まるところを知らないようだ。キャンデロロ自身ももっと盛り上げようと会場を煽ってみせる。観客席から降ってきたぬいぐるみを抱えたままで、彼は再びリンクへ現れる。観客席の婦人への恋に破れた演技のあと、いまや伝説となりつつある直進ステップをアンコールで見せる。観客はもちろん大喜びだ。永遠に続く喝采の中、彼は何度も何度も観客に手を振り続ける。アマチュア最後のオリンピックとして、彼自身の心に焼きつけるかのように。そして、長野五輪のエンブレムで彩られているリンクの中央に両膝をついて、氷に接吻した。

「もう思い残すことは何もない。」そんな晴れやかな表情と「アデュー」の声を残して、彼はリンクから消えていった。彼の「ダルタニャン」は、世界中の人々を魅了した。「オリンピック史上で後世に語り継がれるプログラムになった。」実況のアナウンサーも、感慨深げにこう語った。


P.キャンデロロ選手の「ダルタニャン」INDEX

©三銃士ファンクラブ銃士倶楽部/文:19 いせざきるい>