銃士の密偵

密偵を駆使したリシュリュー

「ジャン・デュ・プレシス将軍、枢機卿リシュリュー公はフランス全土にスパイ網を張りめぐらし、正確で信頼できる情報を普段に吸い上げる組織を作った。アレクサンドル・デュマの作品の中での枢機卿は悪党だが、実際の彼は大の愛国者で、フランス統一のために優れた行政手腕を発揮した。奇妙なのは、彼がそれをもっぱら自分のスパイ組織に頼ってなし遂げたことで、数千の人々に、封建領主が王位に服従するのを強要するという共通目的を与えることに成功したのである。」<『陰謀と諜報の世界』より>

個人的な情報組織網を持ちながら、それをプライベートな目的に使わなかったことで評価の高いスパイマスターとしてのリシュリュー。歴史的に有名な協力者は、黒幕と呼ばれるジョセフ神父と陰謀家マリー・ド・ローアンですが、歴史に名を残さないローシュフォールミレディー(ある意味ボナシューもコンスタンスのスパイに仕立てられていた)のような公式・非公式の密偵たちも数多く抱えていたことでしょう。

三銃士に見る密偵の活躍

●マンの町で待ち合わせたミレディーローシュフォールが枢機官の命令「即刻イギリスに帰り、公爵がロンドンを出発したか探ること、英仏海峡を渡ったら箱を開いて他の命令を確認すること」を伝える。(第一巻1章)

ローシュフォールがバッキンガムに関係するボナシュー夫人拉致。(第一巻8章)

●シュヴルーズ夫人と密会したアラミスをローシュフォールがバッキンガム公爵と間違え、逮捕に失敗。(第一巻9章)

●ボナシュー尋問中の枢機官へ、ローシュフォールがラノワ夫人から伝えられたバッキンガムと王妃の密会情報を報告。枢機官からの情報をもとにパリ市内で裏づけ捜査。(第一巻14章)

●枢機官はミレディー宛ての命令書「バッキンガム公のダイヤモンドの飾緒を2個切り取り、連絡」をヴィトレーにロンドンまで届けさせる。(同上)

ローシュフォールはボナシュー夫人の動きを夫を使って監視。(第一巻17章)

ミレディーがダイヤを二つ切り取ってフランスへ帰国。(第一巻21章)

●サン・クルーにてダルタニャンとの密会を待つボナシュー夫人をローシュフォールが再度拉致。(第一巻24章)

●枢機官が「赤鳩亭」にて待ち合わせたミレディーに、渡英してのバッキンガムとの交渉、および決裂時の暗殺を命令。(第二巻14章)

ミレディー、ウィンター卿に幽閉されるも、フェルトンをそそのかしてバッキンガム暗殺に成功。帰国。(第二巻29章)

●枢機卿の指示でベチューヌで待機するミレディーと落ち合ったローシュフォールが、戦果の報告のため枢機官のもとへ。(第二巻32章)

●枢機官の命令でローシュフォールがダルタニャンを逮捕。(第二巻37章)

通信手段や交通手段の発達していなかった当時の密偵の条件は、長距離移動のできる体力と文書に頼らない記憶力が必須だったよう。文字通りリシュリューの手足&目耳となって働いたんですね。

●参考資料

「陰謀と諜報の世界」ジョック・ジャスウェル/著、1978、白揚社

<レポート:いせざきるい/©三銃士ファンクラブ銃士倶楽部2006>

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