小説「アラミス最期の恋」


Le Dernier Amour d'Aramis (アラミス最期の恋)
Jean-Pierre Dufreigne/著、1993Grasset社/発行 282p ISBN:2-246-42821-1 100Fr
Livre de poche 217p ISBN:2-253-13648-4 26Fr

上記は、フランスで93年度アンテラリエ賞を受賞した三銃士パスティーシュ本です。
注)アンテラリエ賞とは、主にジャーナリストの著作を対象とした文学賞。

LIREの書評によると、
”アトス、ポルトス、ダルタニャンは死んだ。しかしアラミスは生き続けている。変貌自在の処世術で、どんな難局をも切り抜けてきた彼ゆえに。
枢機卿であり、スペインの大貴族でもある七十過ぎの盲の男は、おのが回想録を、名づけ子である二十二歳の孤児の娘に口述筆記させる。―――彼の人生最後の恋人である娘に。
過去を回想するアラミスの言葉に魅せられた娘は、身も心も彼のとりこだ。
(中略)
大デュマ――誰よりも四銃士をよく知っていた彼も、そのただひとりの生き残りのかたわらに、世にもたえなる恋人が寄りそう日々を見ることは、心たのしきものに違いない。”

原文が、簡潔にして音楽的。辞書で単語をひいていくだけで、だいたいの意味はわかるし(でも、簡潔で音楽的な日本語に訳すのって難しいよ)、『覚え書』みたいに、今の辞書には載っていない意味や熟語がぼんぼん出てくるなんてことはないので、原書に挑戦してみたいひとは、わりとお薦め、かも。

序章「In memoriam」では、老境に達したアラミスの心情が、淡々と、しかし沈痛な響きをもって語られています。陰謀と裏切りの半生を悔いる姿は、深く読者の胸をうつ――のですが、そっかー、アラミスも年ですっかり気弱になっちゃって、心底反省してるのねー、なーんて思ったら大間違い。50も年下の名づけ娘に手を出して妊娠させてしまうわ(で、娘に「わたし、きっとみんなに売女ってよばれるわ」って泣きつかれるの。なんせアラミスは枢機卿だし、いつ死んでもおかしくない老人だから、残される女(と子供)の方はたまったもんじゃないわよね)、彼女にちょっかい出した男と決闘して殺しちゃうわ(アラミスは盲なんだってば!)、自分の子を王位につける!なんて野望を抱いちゃって(そーゆーのはもう懲りたんじゃなかったの!?)、冗談はよしなさいとたしなめられたり・・・。結局、何歳になってもアラミスの性格の良さは直らないのね、というお話でした――じゃなくって、再び目も見えるようになるし、アラミスはそれなりに幸せな晩年を送るのでした、という三銃士ファン(アラミスファン?)にとってはうれしい内容。もちろん回想録だけあって、子供時代の話、アトスやポルトスとの出会い、色事など盛り沢山です。


アラミス最期の恋

または、シュヴァリエ・ルネ・デルブレーの真実の回想録、
ヴァンヌの司教、
アラメダ公爵、
スペイン大公、
スペイン国王大使、
イエズス会管区長、
かつては、フランス国王銃士隊トレヴィル中隊所属の銃士、
その名をアラミス。

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”これまでわれわれがその物語を続けてきた四人の勇者のうち、生きた肉体を持つ者はただ一人しか残ってはいなかった。その一人をふくめて、神はこの四人の魂を天に呼び戻されたのである。”

かくして『ブラジュロンヌ子爵』は幕を閉じる。アレクサンドル・デュマの三部作、『三銃士』、続編『二十年後』に続く最終巻は、2000ページになんなんとする大作で、国境を越えて神話化された史実であると言えよう。生き残った「肉体」とはすなわちアラミス――四人のなかで、最も謎に満ち、洗練された趣味を持つ男の、それである。

ジャン=ピエール・デュフレーニュはここに、かつては司教であり、イエズス会管区長にしてスペイン大公である人物を再発見した。時は17世紀も末、サラゴザの自邸にひきこもる老人にとって、回想録を執筆し、邸を訪れる孤児の名づけ娘に薫陶をほどこす時である。

主の恩寵により盲となった枢機卿と、当世風の自由思想を身につけた女子爵のあいだに火花が散った。この恋愛スキャンダルは、因習の根深くはびこるスペインの地にあって、波乱万丈の過去に情熱を吹き込む。彼にとっては、陰謀に明け暮れ、才能あるがゆえに挫折するという皮肉(レッス枢機卿を見よ)に運命づけられた人生だった。
今は虚しく日々を送る彼に、愛が輝きにみちた救いの手を差しのべる。その、人を魅了する語り口は、言葉というものの持つ力を再生させようとする、著者デュフレーニュの熱意のたまものである。現代のジャーナリストでもある著者は、語る。アラミスが、友情や美女、栄誉といったものに、いかにたやすく引き寄せられてしまうものかを。そして、ひたむきで誠実な愛は、社会的制約をも乗り越えるものである、と。

(以上裏表紙解説全文)

2000.1.1 レポート・和訳/No.13 小樽つぐみ>


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