銃士の青年時代

「三銃士」の発表後、デュマがその舞台化のために書き下ろした戯曲「銃士の青年時代」。この冒頭部分のプロローグには、原作では明かされなかったアトスとミレディの若き日のエピソードが描かれていますし、本編についても舞台の制約上、デュマ自身が構成やエピソードにアレンジを加えています。この戯曲作品を場面ごとのダイジェストストーリーでざっくりとご紹介します。

LA JEUNESSE DES MOUSQUETAIRES DUMAS ALEXANDRE, 1994, LA TABLE RONDE, ISBN2-7103-0641-7
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プロローグ前半(第1〜3場)

プロローグ前半のあらすじ

ベリー地方のヴィトレ村、ここを治める伯爵家のラ・フェール子爵(アトス)がよそ者のシャルロット(ミレディ)を見初めた。当初は子爵を拒んでいたシャルロットだったが、司祭の兄が失踪して6ヶ月後、父の反対にあっても意志を変えない子爵の求婚についに承諾する。子爵は友だちの司祭の前でその日の夜に永遠の愛を誓うことを約束し、宝石箱を彼女に贈る。

「子爵さまが、あの尊敬してやまないお父様と喧嘩なさるなんて...」(シャルロット)

ベリー地方のヴィトレ村、ラ・フェール家の司祭館。この家へオリビエ・ド・ラ・フェール子爵(アトス)の手紙を持ったグリモーが、シャルロット・バックソン(ミレディ)を訪ねてやってくる。兄の司祭が失踪して6ヶ月。シャルロットは、使用人のクラウデットと共に司祭館を明け渡すために出て行こうとしていた。だが子爵の手紙によると、彼の計らいで新任の司祭は別の場所を与えられ、シャルロットは家を失うことを免れたようだ。一方、グリモーは、父のラ・フェール伯爵が子爵にルサイア嬢との結婚を薦めたために喧嘩になったことを話す。子爵は、この多額の相続財産を持つ身寄りのない美女との縁談をはっきりと断ったらしい。

「子爵さま...私は、あなたのお申し出にとても感謝しています。でも、それを受け入れることはできませんわ。」(シャルロット)

シャルロットは、子爵がいつものように狩の帰り道に司祭館の前を通るのを待ち受けて、彼にお礼を言いつつも、申し出を拒絶した。彼女はこの土地を離れるつもりだった。理由を尋ねる子爵に、彼女は、彼の将来のために素性のわからない娘は遠ざけるべきだ、と諭す。だがそれに納得のいかない子爵は、彼女への想いを告白するのだった。

「僕は、一言も話さないうちから、あなたを愛してしまっていたんだよ!」(子爵)

1620年、子爵がアンジューでの戦いにルイ13世の軍として加わっている間に、シャルロットと司祭の兄、ジョルジュが彼の村へやって来た。やがて戦いが終わり、子爵が村へ戻ってきた。人嫌いで陰気な兄の影響で、いつも孤独だった美しい娘、シャルロット。子爵はいつしか彼女に惹かれ、その姿を追いかけていた。しかし、兄妹は頑なに彼を避け続けた。そして、兄の突然の失踪。この事件のために村での居場所を無くしてしまったシャルロットの不幸を見て、子爵は一層彼女を愛するようになる。そして、何も聞かずに手を差しのべてくれる子爵に、彼女もまた、好意を抱くようになっていた。それから6ヶ月。

「あなたの秘密を...!あなたのお兄さんとご家族のことをどうか打ち明けてください、シャルロット。今日こそ、あなたの心を開いてくださいませんか?」(子爵)

子爵は、今、いままで触れることのなかった彼女の出自を明らかにすることを望んでいた。そして、出自を打ち明け、彼への愛を口にした彼女に、子爵は求婚した。だが、父のラ・フェール伯爵はこの結婚に反対するだろう。そこで子爵は、二人の結婚を、彼が当主になる日まで秘密にしておくことを提案する。その申し出をシャルロットは拒まなかった。二人は、子爵の幼な友達だという新任の司祭のもとで、その夜に永遠の愛を誓うことを約束し、子爵は彼女に母の形見であるサファイアの指輪の入った宝石箱を贈ると、一旦城へ戻ってゆくのだった。

以上がプロローグの第1場〜第3場までのあらすじです。たった12ページなんですが、辞書引きながら内容を掴むのに2ヶ月ほどかかってしまいました。特に第3場の大半を占める、ラ・フェール子爵ことアトスの独白部分は、あまりにも回りくどい長文が続くので、意味をとるのに苦労しました。文法には詳しくないので、誤訳も含まれているかもしれませんが、大筋はこんな感じだと思います。

プロローグ第4〜8場

「大丈夫よ、シャルロット。夢は見続ければ叶うものなんだわ!」(シャルロット)

子爵が帰ってから、シャルロットはもらった宝石箱を開けて身につけ、伯爵夫人になれる幸せに酔いしれるが・・・。

「シャルロット、私だ!名前を呼んでおくれ。私が分からないのかい?」(ジョルジュ)
「彼だ!二度と会えないと思っていた彼だ・・・何故戻ってきたの?」(シャルロット)

そのとき、謎の男が司祭館の戸を叩く。彼女と大事な話をしたいという男を連れて来た、という。その男こそ、6ヶ月前に失踪した司祭のジョルジュであった。
ジョルジュは、ケベックに行くため、船に乗り込んで500ピストールを稼いだという。全ての過去を捨てて自由にやり直せるから、新世界へ一緒に行こう、と熱く語るジョルジュだったが、シャルロットはきっぱりと拒否する。

「でも思い出して、シャルロット。僕たちは愛と苦痛と・・・そして罪で、お互いが繋がっているはずだ!」(ジョルジュ)
「神にも人にも見放された寂しい子どもたちのばかげた恋だった!」(シャルロット)

シャルロットは恋人だったジョルジュに自由にどこへでも行くよう勧め、自分がお城の子爵と結婚することを打ち明ける。ジョルジュは恋人の心変わりに嘆き悲しむものの、シャルロットの心が変わらないことを悟り、帰っていく。
謎の男は、嘆き悲しむジョルジュを慰めるが、傷心のジョルジュは死ぬ決心をして、男にも別れを告げるのだった。

「おまえは本当に(弟を)愛していたのか?」(謎の男)

謎の男はシャルロットの家に戻ると、ジョルジュが悪魔のような心無い女の誘惑によって一生を台無しにしたことを責める。そこに響く一発の銃声・・・ジョルジュが自殺したのだった。謎の男は女の肩に百合の焼印を押すと、自分こそがベチューヌの死刑執行人でジョルジュの兄であると告白して去っていく。
そこへ子爵が戻ってきて、外から呼びかけられた。シャルロットは、焼印を押された肩をマントで隠すと戸口へと向かって行くのだった。

「子爵さま、どうぞお入りなさい。お待ちしておりましたわ!」(シャルロット)

プロローグは、ここで終わっています。
百合印を押されたのが、子爵と秘密結婚する夜だったっていうのが衝撃的(もっと以前からあると思ってたから)。しかもジョルジュは心からシャルロットを愛していて、なんだかルイズに振られたラウルと重なるものがありました。
子爵はすっかり狂言回し(泣)で、ミレディー主役ですが、それもそのはず、ミレディー役の女優さんとデュマ先生は当時恋人同士だったそうです。次の第一幕部分も7場あるのですが、ぼちぼち訳してます。三銃士との決闘シーンに早々とウィンター卿が登場するなど、原作とは違った構成になっていますので、こちらも面白そう。また機会を見つけてレポートします。お楽しみに。

©1998-2009三銃士ファンクラブ銃士倶楽部/文:No.19いせざきるい>

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