ダルタニャン色ざんげ

恋愛血風録(ダルタニャン物語外伝) 小西茂也/訳、Courtilz de Sandras Gatien/著2005.1ブッキング/発行、税込\2,100/ISBN4-8354-4147-8
*1955年発行のハードカバー版からの復刊
。詳細は、復刊ドットコムへ
*デュマが「三銃士」の種本にしたと自ら告白している偽回想録の日本語版が2005年、遂に入手しやすい形となりました。銃士ファンはぜひともこの機会にお買い求め&最寄の図書館にリクエストをしましょう!カバーイラストは石橋優美子氏、帯の推薦文は佐藤賢一氏。

「ダルタニャン色ざんげ」 小西茂也/訳、1950年河出書房/発行、18p、359p、定価250円

「ダルタニャン色ざんげ<Vie de D'Artagnan par Juimeme>」(河出新書) アレクサンドル・デューマ/著、小西茂也/訳、1955年河出書房/発行、18cm、234p

デュマが三銃士を創作するきっかけとなった、と言われている「ダルタニャンの覚え書」の邦訳版といわれてきた「ダルタニャン色ざんげ」1955年版を、このたびRomiさんのご協力のもと、古本屋さんにて、諸経費2,000円ほどで晴れて入手することができましたので、ご報告いたします。
外見は、ちょうど銃士倶楽部の会誌と同じB6版ハードカバーで、タイトルが赤地、イラストが黄色地に黒インクの三色刷となっています。私が以前、国立国会図書館で閲覧したものは、もうすこし細身の岩波新書サイズだった(しかも奥付もあとがきも無かった。どうやらハードカバー版から5年後に河出新書版が発行されているらしい)ので、二種類のバージョンが存在しているようです。(新書版は「デュマ著」となっていますが、ハードカバー版の訳者解説にもサンドラスが書いたものの全訳であると明記されており、新書版の情報が誤っていたらしい)
口絵には、フランス語版「覚え書」にも付いていた、ダルの肖像画。目次は以下のとおり。(旧漢字は現在のものに改め)

前口上/第一部 最初の決闘/第二部 初恋/第三部 危険な恋/第四部 ボルドー戦役/第五部 英吉利/第六部 バスティユ監獄/第七部 戦争/第八部 結婚と最後の恋/訳者の言葉

なんだか“恋”のついた巻立てが多いなあ・・・とお気づきでしょうが、それもそのはず、邦訳のタイトルに「色ざんげ」とはよく付けたもので、我らがダルタニャンは、トレビル隊長に叱られようが、マザランに忠告されようが、ひたすら恋に生きる男なのであった。「三銃士」で世界中のお嬢様がたのヒンシュクを買った、ミレディーとケティーの二股(いや、ボナシュー夫人と三股?)恋愛のエピソードは、もちろん「覚え書」がオリジナルだけど、実はこんなの序の口だったらしい(苦笑)。この作品に出てくる興味深々の恋愛遍歴をひもといてみると...

●初恋は、パリの宿の女主人。ダル曰く「頗るつきの美人」で、亭主の旅行中に良い仲になったが、嫉妬に怒り狂った亭主と大騒動を起こし、トレビル隊長にさんざん説教された挙句に半ば強制的に別れさせられる。女主人は、亭主の死後、復縁を拒むダルを逆恨みし、嫌気の差したダルの初恋は終わる。

●ミラディへの恋。彼女は清教徒革命のため、パリへ避難していたイギリスの王妃アンリエットの側近、という設定。「未だかつてお目にかかったことがないほど美しい女性で、才智も美貌に劣るものではない」が、氷のような心でダルの求愛を愚弄し続ける悪女。恋の結末はご存知のとおりで、ダルは侍女を利用し、彼女が恋するヴァルデ公爵のふりをして、想いを遂げるが、真実を知ったミラディは、うその告げ口をしてダルをサンジェルマン僧院の牢に閉じ込めたり、刺客を放ったりと復讐に余念がない。それでもダルは、なかなか諦めきれなかったようで、「この恋の傷手を癒すには、時の力を待つより外はなかった」ようだ。後に渡英したダルが消息を探ると彼女はロンドンの郊外で変死したらしい。

●三人目の恋人は、某裁判長官の夫と別居している女で「妻に迎えるほどの器量好しではなかったが、お金の方をどっさりと持っていた」。ダルとは夫婦同然の暮らしをしていたが、ダルの子を身ごもり、醜聞から避けるため、かくまわれた修道院で出産中、母子ともに死んでしまった。

●財産持ちで若い未亡人のミラミオン夫人。結婚を前提として、お見合いまでしたが、ライバルの男が実力行使しようと彼女の馬車を襲い、ダルが間一髪で助け出した。だが、この事件がきっかけで夫人はダルに好意は持っているものの、一生結婚をしないで信仰に生きる決心を固めてしまう。

●フロンドの乱で騒然とするパリ。マザラン暗殺を企む見知らぬ男を裏切ったせいで、恨みを買ったダルは、男から別嬪の妹を遣わされて、娘の家に足繁く通った挙句に、復讐しようとする男たちに囲まれて窮地に立つ。階下にいた知り合いの護衛士の協力で、難を逃れ、娘たちは逮捕される。

●マザランから交渉話の説得を命じられ会うことになった、最高法院評定官の未亡人。「きっと昔は美しかったに違いなかろうが、今はその美しさも殆ど面影を止めていなかった」が、ダルはこのお金持ちの夫人との結婚をとんとん拍子に進めていった。しかし、財産を我が物にしようとする息子の邪魔が入り、夫人が行方不明になってしまった。やっとのことで行方を探り当て、釈放命令書を手に、夫人が監禁されていた牢獄へたどり着いたときには、彼女の命は尽きる寸前。またもや悲しい別れが待っていた。

●パリのおしゃべりな某夫人。この夫人へのプレゼントにとダルは男前の肖像画まで描かせた。枢機官の命令で髭を伸ばし放題にしていたころには、髭を嫌って危うく仲違いするところだった。

●ボルドー裁判所評定官のお内儀。「難攻不落の貞女とはあまり威張れない代物」である、このコンチ公の情婦を手慣づけるため、カプチン僧に変装したダルが接近し、うまく丸め込むが、コンチ公に情事の現場を押さえられて、退散する。

●マザランの命で三度目の渡英。心奪われたのは、呉服屋で会った「やや大柄な絶世の美女。」マザランから、駐英フランス大使とはくれぐれも顔を合わせるなと釘を刺されたが、彼女は大使の恋人で、ダルはこれを知らずにこの家のコックとして雇ってもらい、夫人とよい仲になる。大使は、夫人との仲を勘ぐった上に、ダルをコンデ公のスパイだと誤解し捕らえると、バスティユ監獄に強制送還してしまう。

●ダルが結婚したのは、嫉妬深い女で、夫婦喧嘩が絶えず、修道院に引きこもってしまった。「結婚する時は、おのが利益や情熱については考えるが、一生連れ添うという相手の気質などは、殆ど考えぬことが多い。」というダルの言葉は名言かも!?

●最後の恋は、天下有数の美人の一人、ヴィルトヴィル候夫人。ダルが奥方と別れたのを知って、以前から好ましく思っていたダルに恋文を送る。だが喜び勇んで指定された逢引き場所に行ってみたダルは、指先に接吻することすら許されなかったが、その分別心ゆえにダルに心から愛されることになる。

――ダルも最後は幸せを掴んだようんで、めでたし、めでたし。それにしても、ここに出てくるだけで総勢12名。

「これが僕の弱点なんである。色女が一人二人ないと、僕はまるで病気にでもなったようにしょげてしまう。自慢ではないがフランスでなら、僕は女に不足したためしがなかった。」というダルのセリフにも説得力ありますねえ。・・・ダルの名誉のために言い添えておきますが、この「覚え書」は作者のサンドラスが、ダルタニャンがあたかも回想録を書いたかのように、歴史的事実とフィクションを取り混ぜて描いた創作物で、恋愛事件については、ほとんどがフィクションの域を出ないものだと思います。

実在のダルは、佐藤賢一氏がお書きになったように、もっと軍人かたぎで真面目な人物じゃないかなあ、と想像しますし、デュマもこれではヒーロー性が弱いと判断したのか、「二十年後」以降はすっかり大人しいダルになってますものね。(ヴィルトヴィル夫人だけは、登場して欲しかった気もするケド)

もちろん、アトス(恋人持ちだ〜)・アラミス・ポルトスの三人も登場しますが、思いっきり脇役してます。念のため。

 

*河出新書版は、東洋大学 附属図書館(〒112 東京都文京区白山5-28-20)にあるそうです。貸し出し可能かどうかはわかりませんです。

1997.10.20 情報/Nobuko inomata>

<文:いせざきるい/©三銃士ファンクラブ銃士倶楽部2003>

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