復刊にまつわるいせざきの覚え書


◆講談社文庫版入手不能!? 銃士倶楽部に衝撃が走る!

最初の一報は、276 ゆうこさんからの連絡でした。1996年6月頃:東京の大きな本屋(新宿渋谷紀伊国屋、池袋のリブロ・旭屋etc)で見かけなくなり、同年夏頃:講談社から「絶版」の返事あり。その後インターネットで紀伊国屋に注文をしたが絶版。「再版未定」と返事あり。とのこと。映画「仮面の男」のクラインク・インも伝えられる中、まさかこんな世界的名作が絶版の憂き目にあうとは…まさに青天の霹靂、思いがけない悪い知らせに、既に「ダル物」を愛蔵していた銃倶会員の間にさえ衝撃が走りました。

その後、銃士倶楽部のホームページでは、各地の図書館所蔵情報や古本屋情報を掲載し、「ダル物」をGETしたいファンのために、情報提供を始めました。また、品切になり、増刷して採算がとれるか否か検討中の本は書店からの注文数が多くなると増刷されることがあるので、とにかく書店で注文しようと働きかけました。しかし、「仮面・・・」のヒットにも関わらず、再販の吉報は届かず。一方、「ダル物」を探すファンは増加するばかり。藤本版「三銃士」のおかげで発行元の講談社さんにちょこっとだけコネのできたいせざきは、デジタルブック化の企画を教えていただいたものの、これもいつのまにかお蔵入りの様子。コストの少ないデジタル化さえできないのは何故なのか、さっぱりわからぬままで、一時はボランティアを募って銃士倶楽部でデジタルテキスト化をしようか、と大層な野望さえ抱いたのでありました。

◆復刊ドットコムで復刊リクエスト開始される!

ちょうど一年前の2000年6月、絶版になった本にネットを通じて投票が集まったら、復刊の交渉をしてくれるという有難いサイト「復刊ドットコム」で「ダル物」に票が入り出したと、三銃士の掲示板「銃士広場」に書き込んでくださった方がいて、早速応援演説に行ってきました。皆の協力で、票はあっという間に交渉開始票数の50票(現在は100票)を突破。これで、商業ベースで復刊への道が開けるかと、期待が膨らみました。間もなく、投票者のもとに「復刊交渉を始めるから、情報を教えてほしい」といった旨のメールが届きました。いせざきも早速、「ダル物」の著作権情報(いつかデジタルテキスト化するときのために調べておいた)などを提供しました。

◆「ダル物」復刊危うし!立ちはだかる差別用語の大きな壁

復刊交渉に入って間もなく、「復刊ドットコム」から出版社との交渉の第一報が入りました。なんと「ダル物」復刊を阻んでいたのは、採算性ではなくて差別用語が多いためだったとのこと。訳者が二十数年前に亡くなっているので、差し支えのない表現に書きなおしてもらうことも難しい状況。

男女差別や身分差別がはっきりとしていた17世紀を舞台にした歴史小説で、その小説が書かれた時代も今から150年前であることを考えると、もともと現在と異なった人権意識に基づいて生まれている作品です。かといって昨今の出版界では、差別用語は非常に敏感な問題です。

ともかく差別用語が原因では「ダル物」の復刊はまず難しいだろう…と、半ばあきらめに似た境地でこの交渉結果を受け止めざるをえませんでした。

◆「ダル物」復刊水面下の戦い!ブッキングと秘密会談

ちょうど会誌Vol.53の編集をしていた秋頃に、ブッキングから「ダル物」復刊について、直接会って話をしたいといったメールをいただきました。思ってもみなかった大吉報!そして「ダル物」担当の岩本氏に名古屋までお越しいただいて会談が実現しました。(ひょっとして、彼は名古屋出身というだけで「ダル物」担当にされたのかもしれません。だとしたら、ちょっとお気の毒…)

「ダル物」の良さを認めてくださった同社では、文芸出版に進出するべく、同じ形のコピーを復刊するのではなく、差別用語を改めた上で新装版として発行したいとのこと。な、なんだかコトが大げさになってきたぞ(汗)でも、作品としては過去も未来も多くの読者の心をつかむ名作であることに自信があるし、これだけ入れこんでくれるブッキングさんに損はさせられないよね。ということで、全面的に協力することをお約束しました。

◆晴れて復刊公表へ・・・着々と進む発行準備!?

会談後、手元にある写真や版画、挿絵など参考になりそうな資料一式を送り、発行の詳細が決定する日を心待ちにしていました。実はこの段階では、文庫版発行元の講談社さんに非常に気を遣っていたために、HPなどを通じて公表することが困難だったのです。でも、会員の皆には少しでも早く知らせてあげたいと、12月の会報の発送を待機させて、公式発表用の文書が届くのを今か今かと待っておりました。そんな訳で岩本氏を急がせてしまったので、皆さんのところへ届いた速報では、笑い飛ばせる程度の誤字がいくつか混じっていたかと思います。ご容赦ください。

そして発表された1・2巻の表紙−いせざきが強力に推薦したルロワ氏の挿絵を使っていただいて感動!文庫版で唯一物足りないと思っていたのが表紙のイラストだったのですが、三銃士のキャラクターが完璧に描き分けられる彼の挿絵なら不足はありません。

そして12月12日、「ダル物」のネット予約が始まりました。銃士倶楽部HPでもトップページにリンクを貼って応援。冬コミでは、銃倶スペースで岩本氏自らチラシ配りをされ、ひたすらPRに努めました。

◆「ダル物」完結に向けて−気の抜けない日々が続く

冬コミのときの岩本氏のお話で、「二十年後」編の表紙選定が難航しているとのことだったので、幾つかお薦めのものを送りました。ルロワ氏の挿絵があればベストなのですが、どうやら彼は「三銃士」編のみしか手がけていない様子。国際的に作者の死後50年は著作権が存在するので、費用のこともあって新しい画家のものは使えません。そこでプロフィールは分からずじまいでしたが、デュマ発表当時の挿絵と思われるものを選びました。ちなみに5巻の表紙は、お貸ししたスウェーデン語版の本から、ブッキングさんか装丁を担当した嶋中書店さんのほうで選んでくださったようです。マザランを捕まえるクライマックスなのに、いせざきは全然気がつかなかった絵だったのでびっくりしました。

そしてこの5月、遂に全11巻復刊が完結しました。復刊ドットコムで復刊交渉にこぎつけながら、諸事情で復刊の決まらない本も少なくない中で、「ダル物」は大変な幸運に恵まれた作品でした。この復刊によって、新しい命を得た銃士たちの活躍に胸躍らせ、人生の糧とする人が増えるのを願ってやみません。


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©三銃士ファンクラブ銃士倶楽部2001/レポート:No.19 いせざきるい