秋晴れの空の下、みなさんのご協力により、海外からの講師によるシープドッグのセミナーを開催することができました。これは、そのレポートです。

シープドッグセミナー@南知多

開催日時 2004年11月6日(土)7日(日)

会場   南知多町 「ふれあえないふぁーむ」

講師   Janet P Beale, from Scotland(Astra Sheepdog Training Centre)


1.セミナー概要

今回のセミナーは日本では初の開催ということで、主に講師Janetのトレーニングメソッドの紹介という形になった。つまり、トレーニングの初期の段階で彼女がとるトレーニングメソッドである。

しかし、そのエッセンスはトレーニングの全ての段階において核となるものであり、犬と仕事をするにあたり生涯を通して、犬と人、そして家畜との間に相互に作用し続けるものである。


* トレーニングを進めるにあたり重要な4つのポイント

・Instinct(本能を使う)

・Sheep must be trained(訓練された羊で始める)

・Good fence(良いペンを使う)

・Respect from the dog(犬から尊敬されること)

犬とトレーニングを進めるにあたって、Janetはワーキングシープドッグが本来持っている自然な本能(Instinct)を利用する。

正しくブリーディングされたシープドッグたちにとって、羊を追いかけることは自然な欲求であり、それを止めることは彼らにフラストレーションを抱え込ませることになる。よって本能が発現し羊を追い始めた犬を、トレーニングの初期の段階ではけして止めることはしない。だからといって犬の自由にさせているのではなく、ハンドラーは犬から羊を守らなければならない。羊との距離が縮まり、恐怖やフラストレーションからカットインしてこようとする犬を、正しい位置に押し戻してやらなければならない。

この段階では、犬は羊の周りを正しく円を描いて回り続けることが重要である。犬は回り続けるうちにどこが自分にとって「快適な」位置であるかを学ぶだろう。そして犬が快適に旋回していれば、羊も快適であり、息をあげて逃げまわったり、闘争や逃走を引き起こすことがない。

さらにこの段階で最も大切なことは、若い(経験の浅い)犬が難しい局面に対峙し、「突っ込む」、「噛む」といった行動を起こさないように「環境を整えてやる」ことである。すなわち、ある程度犬と人に慣れている訓練された少数の羊(3頭でOK)を使い、さらにコーナーのない(できれば円形の)小さなペンで仕事を進めるようにする。

小さなペンは犬と羊をハンドラーのコンタクト外に押しやることを防ぎ、さらにコーナーを削ることで、羊達が角にスタックするのを防ぐことができる。訓練された羊は未熟な犬に自信を持たせ、彼ら(犬たち)がとるべき態度を教えてくれる。

そして、ハンドラーである私達は常に動き続けなければならない。羊と共に動きながら犬に最適な位置をキープさせるようにコンタクトし続けなければならない。これは慣れないハンドラーにとってかなりの集中力と体力を要求する仕事である。立った位置を動くことなく、遠隔で華麗に犬を動かすシープドッグの世界も最初は「歩け歩け!」なのだ。

この時点ではまだコマンドは使わない、犬を動かす(励ます)"シュシュシュシュ"といった音と、カットインしてこようとする犬を脅すための"アアッ"といった唸り声のような音と、犬を後退させるボディアクションのみである。このボディアクションを助けるのが熊手やレーキといった人の手の延長となるstickである。このstickを有効に使うことで、無用な大声や体罰といった、犬を更に興奮させたり、フラストレーションを高めたりする行為をとる必要がなくなる。

犬は人が発する音のトーンやボディアクションには驚くほど敏感に反応するものだ。この素晴らしい能力を、初期の間違ったトレーニングによって耳をふさがせてしまうようなことのないようにしたいものである。

土曜のセミナーで一頭の犬がフィールドの真ん中でダウンし続けていた。Janetの指示は「犬を歩かせて」であった。羊を挟んで犬と対面していたハンドラーは、もちろん「ウォークアップ」をかけたのだが、その時彼女がとっていたボディアクションは、stickを頭上に振りかざし前かがみで犬に対峙していた。直前に犬に「ダウン」を要求した時のアクションがそのまま残っていたからだった。「stickを降ろして!」Janetの支持で彼女が手を下ろすと、犬はステディな態度で歩き始めた。なぜこの時犬はステディな態度をとったのだろうか? それは、ハンドラーに対して「少しのfear(恐れ)を抱いたRespect」を現していたからだろう。

"Respect" すべてはここから始まる。犬から人へのRespectはもちろん、人から犬、そして犬と羊、人と羊の相互に、少しばかりのfearを持ったRespectがなければならない。Janetは最後までこれを強調し続けた。「悪い犬はいない、いるのは悪いハンドラーだ」あらゆるドッグトレーニングの現場で言われ続けることを、ここでも私達はJanetの口から聞くことになった。

さて、初期の段階のトレーニングは、犬と羊と小さなペンを歩き続けることで進めていく。

最初は大きなアクション(stickの操作をともなった)が必要だが、回を重ねるうちに小さな手のアクションや、人が少し位置を移動するだけで、犬が旋回の方向を変えたり、まっすぐに羊をプッシュしながらハンドラーのもとに歩いてくる「ウォークアバウト(Walk about)」といった動作をとれるようになってくる。そういった動作が確実にとれるようになったら、その正しい行為を行っている最中にコマンドをかぶせていく。つまりCom-bye、Away、Walk upといったコマンドである。

ただし、初期の段階から必要に応じて犬に「lie down」をかけることはOKである。セッションの最後にはフェンスに対して羊をキープさせ、犬はダウンさせた状態で終わるようにする。言い換えれば、Janetがこのステージの犬に要求するオビディエンスは、このLie downとHere(戻って来い)の2つだけだそうである。

一つ重要なことを書き忘れた。初期の段階では犬には必ず5mほどのリーシュをつけておかなければならない。このリーシュは保険であり、今回のセミナー中には滅多に使うことはなく、犬によっては取り外されたこともあったかもしれない。しかし、我を失った犬を強制的に今やっている行為から引き離すためには大事なツールであるし、それ以外にも血気盛んな若い犬では有効に使える場面があるだろう。

小さなペンでのベーシックワークが固まってきたら、初めて広いフィールドに出る。そしてそこでまた同じことをする。そこで問題がおきればその都度小さなペンに戻ってベーシックワークを確認する。そうやって問題がおきた場合にはこの先もずっと、基礎に戻って確認する作業をJanetは奨励した。どこの世界も(Agilityも、Obedience workでも)要は同じということだ。

犬と羊のコミュニケーション手段を理解し、トレーニングに活用していくJanetの訓練方法では、犬は自由にのびのびと活動し、自然体でストレスを溜めずパニックを起こすことなく知識・技術を身につけることができるという。まさにそのマジックを体感した2日間であった。

2.セミナー所感

さて、ここからは私個人の感想である。私は、、、とにかくワクワクした2日間であり、Janetは素晴らしい講師だった。少なくとも私にとっては。そして北海道からはるばる駆けつけてくださった、通訳のOさんもまた素晴らしい仕事をしてくださった。

今思い出す限り、ヒースは3回のセッション中、一度も羊に歯を当てなかったのではないだろうか? いや、それはないか? フェンスから羊を離す時は多少グリップしたかもしれない。しかしそれ以外では、旋回中常に隙を見てカットインしてこようとするヒースが、stickとJanetの指示のおかげで、彼なりに「いるべき位置」を見出したようであった。いるべき位置で正しく回っていれば、彼もhappyに仕事を続けることができる。その後のウォークアバウトに続く一連の動作の流れも、最後にはかなり理解し始めていた。Tさんのかつてのフィールドで初めてあひるを追った時の彼の姿が戻ってきたようだった。

あの時、彼は初めての場所と初めての家畜に対して、わずかなfearを持っていたと思う。それが良い方向に作用していた。しかし、最近の彼はそのfearによって引き出された「突っ込む」「噛む」といった動作がもたらした報酬に、フラストレーションの行き場を転化しているように見えた。そしてその転化行動を引き起こす最大のネックが、なんと情けないことに私の「コマンド」だったのである。

彼にとって、私の「ライダウン」や「ステイ」といったコマンドは逆に「突っ込め!」になっていたのだ(T_T) 

Janetのセミナーを受ける直前に、Tさんの好意で少しだけ羊を追わせてもらったことがあった。その時には「私の声かけ」が問題なのだと気づいていた私は、極力声を出さずに、立ち位置だけで犬に伝えようとした。結果、この時の彼は良い感じで動けていたように思う。Janetが「最初はコマンドはいっさい使わない」と言ったとき、私は少し心が躍った(笑)。

セミナーはやはり、心躍る結果が出た。ヒースはよくやってくれたと思う。そしてまた私自身はとっくに気づいていた問題ではあるのだが、それが多くの人の目前で明らかになった日でもあった。なぜ彼は私のコマンドで突っ込むのか? それは、、、彼にとって私は "Respect"の対象ではないからだ。信頼し頼っている存在からストップをかけられるのは受け入れられても、頼りなく「お友達」感覚でいる存在からのストップの要求は、「行け行け突っ込め!」の無責任な煽りに聞こえているのだろう。

"Respect" 上記「概要」でも書いたように、すべてはここから始まるのだと私は思う。犬からのRespectは、けして大きな声で叫んだり、痛みを与え続けることからは生まれない。常に一貫性をもち、フェアであることだと、私は改めて今回のセミナーで学んだ。そして、もちろんRespectは犬から私達への一方向のものではなく、自分の持てる能力全てを使って、私達の要求に答えてくれようとする犬たちへ、そして忍耐強く付き合ってくれる家畜に対しても、私達自身が常に持っているべきものだろうと思う。

今回のセミナーで、stickという物理的作用によって、自分の思い通りにならなかったヒースは、その時点で「ん?このオバサン、ちょっと今までとちゃうやんか?」と感じたことだろう。しか〜し、それで終わらないのがヒースと私(^^;)。仕事を終えていざフィールドを後にしようとすると「まだやるねん! 羊が逃げるやんけ!」と、彼は私と眼をあわそうとしない、隙あらば羊のところに行こうとする。私が彼のRespectを得るのはまだまだ先のようである(涙) 

Jnaetいわく「ヒースはこれで一生羊と会えないかもしれないと思っている。犬の思考とはそういうものだ」。それはまったく理解できることだ。飼い主と離れることに不安を持っているうちは、ちょっと公園のベンチに繋がれただけで、今生の別れのようなオーバーなリアクションをとる犬がいる。今の彼に私へのRespectとともに必要なのは「羊にはまた会える」という理解をつくることだろう。それには、、、まめに通うしかないのだろうなぁ。Tさん、よろしくお願い致しますm(__)m

感想が長くなるので、たみこは省略(゜o゜)\バキ!。や、彼女もよくやってくれていた。
私的には上出来である。Com-bye方向への旋回が異常に苦手だったが、最後の方ではかなりスムーズに回れるようになっていた。スペースができたときに入れるWalk aboutは、お得意の低い姿勢から、あまり殺気立ってない(笑)スニークを見せていた。彼女のスニークの頼りなさ(^^;)は練習で自信をつけさせることで、改善していけるといいなぁと思っているのだが、、、さてどうなるか?

ヒースに対しても、たみこに対しても、「Very nice dog」だと嬉しい言葉をJanetから頂いた。「ヒースは雄で、雄としての強さがあり、十分な眼力とナチュラルな性能を持っている。あなたに必要なのは彼からのRespectを得ることだ」Gypについては「She is very very nice dog, I like her」と。嬉しくもあり、耳が痛くなる言葉をいただいた。

Benは、、、正直Janetを驚嘆させたのではないか? 「誰に習いましたか? 本ですか?
ビデオですか?」とTさんとBenの仕事ぶりを見たJanetの開口一番の質問だった。日本に職業でもないのに、このような仕事を見せてくれるチームがいるとは思わなかったのであろう。彼の年齢(Tさんじゃなくて、Benのよん^^;)がまたJanetを驚かせたようだ。最後までBenを褒め称えて帰国していった。Tさん、期待されてまっせ〜(゜o゜)\バキ! 


さて、自分のことはこのくらいにして、講習を終え、今強く感じていることを書いてみたい。今の日本のシープドッグファンシャーに必要なものが何なのか?ということである。(←ちょっとあんさんそんな大層な〜\^^;)

とりもなおさず、それは「情報」ではないかと思う。情報と知識の蓄積が一番大切なことではないだろうか? かつてのAgilityの世界が服従競技の延長であったような時代のことを思うと、今日のアジリティシーンは格段の進歩をとげ多様性に富んでいる。
海外から多くのインストラクターが来日し、それぞれの成功したスキルを伝えていったこと、また「世界大会」への出場で多くの情報がもたらされるようになったこと、などなど。

しかし、それに比べて「何を自分に取り入れて、何を削るのか?」その選択の余地すらほとんどないことが、今の日本のシープドッグ界の現状であり、大きな問題なのではないだろうか?

上記セミナー概要で述べたように環境を整えることに気を使わず、経験の浅い犬を難しい状況に追い込めば、犬は簡単にフラストレーションを溜め、パニック行動に出るだろう。それを阻止するために、犬の要求とは反対の「ストップをかける」(覚えていますか?犬は羊を追いたいのだ)ことに終始すれば、犬は考えることを止めてしまうだろう。

海外のwebsiteや書籍で、多くの経験あるハンドラーたちが述べているように、犬は自ら学ぶ機会を失い、その結果、機械的な犬になっていく、、、と。犬の能力の自然な発達に任せておく方法は時間が多くかかるので、早急に形を整えようとするハンドラーは、犬をせかし、コマンドを叩き込むことに精進してしまう。最初から犬をコマンドによってコントロールしようとし続ければ、犬はバランスを学ぶ機会を一生持たないだろう。

犬に正しい位置と羊にかけるべきプレッシャーの量(というのかな?)を理解させるのにコマンドは必要ないと、今回のセミナーを通して実感することが、私はできた。それはUSのCandy KennedyやBruce Fogtがその書籍やサイトで述べていたことでもあり、「犬との初期のグランドワークに多くの時間をかけろ」と述べていることそのものだった。机上の理論のようで、今ひとつ理解できずにいたことが、Janetのおかげで明確になったのである。これは私にとっては大きな収穫だった。

Janetや、海外の他のハンドラーたちのやり方が全てではないだろうし、それが正解であるとも限らない。日本的事情も考慮しなければならないこともよくわかる。しかし、私達は情報を交換し合い、話し合う必要があるのではないだろうか? 私達のインストラクターと、また私達相互で、、、なぜなら、まだまだ日本におけるシープドッグのトレーニングは未成熟な分野であるからだ。外からの風に襟をたて、呼び声に耳を塞いでしまえば、そこから何ら変わっていくこはできないだろう。

「次にみなさんとお会いするときには、私はまったく別のことを言うかもしれません、トレーニングの方法や、動物に対する認識というものは変化し、進歩していくものなのです。それゆえに面白いのですよ」とは、Janetの言葉。私が彼女に対し素晴らしいと思ったことの一つは、彼女のこの柔軟性であり、そしてあふれる好奇心を持っていることだ。

幸い、私には急がなければならない理由がない。トライアルはその時点の自分の進み具合をチェックするには良い機会だと思うけれど、焦って出場する必要性を私はまったく感じないし、トライアルに合わせた練習をする必要もない。それに、第一、今の日本のトライアルの形式自体が犬の習性・本能を考慮してないのでは?と気にかかっている。このトライアルの形式一つとっても、もっと多くの意見が反映されるべきではないか? 

講習を終え、今の私は自分のできる範囲で、ベーシックワークをコツコツとやって行けば良いと思っている。今までもそう思っていたが、よりいっそう強くそう思った。犬が自ら考え動こうとする姿を見るのはいいものだ。その「自分だけ」の考えから、ハンドラーに協力することが自分にとっても魅力的なことだと理解させることが次のステップだ。仕事を続ける中で自然と理解が生まれるかもしれないし、壁につかえるのかもしれない。それでも、、、何年かかってもいいのだ。急ぐ必要は何もない。

「もう二度と羊に会えないかもしれない」と情熱を傾けている(笑)、愛すべき自分の犬と私自身の「Happy」のために練習するのだ。そして、私こそが、私の犬の一番の理解者でありたいと思うから。

Happy people, happy dog and happy sheep!

以上。

2004年11月11日


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